本県水晶宝飾業界の草分けであり、今日の隆盛を築きあげた功績者である。 故大森文衛氏の遺稿「水晶ものがたり」が上梓された。 甲州に水晶が採掘されたことに端を発し、郷土の代表的伝統産業 として発達してきた本県研磨技術も、いまや世界のトップをゆく水準を誇っている。
しかし、その陰には、この技術を伸ばし、業界の発展を支えてきた 数多くの人々の、営々たる努力があったことは当然である。 大森さんは、明治・大正・昭和の三代にわたって、文字通り水晶とともに生き、 ともに歩んで来られた方であり、その生涯がそのまま本県水晶史であったといえる。
丹念に残された記録をもとに綴られた「水晶ものがたり」は、 まさに「生きた歴史」であって、その正確さにおいても誠に貴重な文献である。 また一面、往昔の世相も行間随所に描写されて、風俗史として読んでも興味深いものである。 七十余年の生涯を、ひと筋に業界に貢献された大森さんが、 このような貴重な遺産をわれわれに残してくださったことは、 いかにも高潔な人格者であった大森さんらしいお心配りであると感謝申し上げる次第である。
山梨県知事